2026年03月30日
データ・AI活用を現場に定着させるためのアプローチ
— レンゴー様での取り組みとJ-DAPの価値 —
データ活用を推進する上で「データ基盤は整ったのに現場での活用がなかなか進まない」という壁に悩まれている企業は多いのではないでしょうか。レンゴー様もその一つで、データ基盤を構築されましたが業務部門への浸透は思うように進まず、データは蓄積されるものの意思決定への活用にはなかなか至らない状況が続いていました。
その中でレンゴー様ではデータ基盤の導入や自社の課題に特化した研修プログラムの開発・実施を通してデータ活用やDX人材の育成を実現されており、弊社も支援を支援させていただきました。
https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/how-to-training-dx-personnel-data-driven-rengo-amazon/
本記事では、レンゴー様の取り組みを通じて見えてきたDX推進の進め方を、段階的なステップとしてご紹介します。同様の課題をお持ちの推進担当者の方々にとって、自社の取り組みを考える際のヒントになれば幸いです。
企業が直面する3つの課題
データ活用推進に取り組む多くの企業に共通する課題として、大きく以下の3点に整理できます。
<b>① 小さく試す仕組みが不足している</b>
いきなり全社最適を目指すと検討に時間がかかり、現場への浸透がなかなか進まない傾向があります。効果を早期に実感できる領域から段階的に展開することで、現場の推進力が生まれ次のステップへの自然な広がりが期待できます。
<b>② フェーズごとに求められるスキルが異なる</b>
データ活用は構想・企画、データ収集・蓄積、分析・AI活用、業務適用といった複数フェーズで構成されます。それぞれで求められるスキルが異なるため部分最適に陥りやすく、「基盤はあるが活用されない」といった状態が発生します。
<b>③ 業務とデータ活用がつながっていない</b>
現場では日々の業務が長年にわたって確立されており、その中にデータやAIを取り入れて業務を変革することは、一足飛びには難しいのが実情です。「どの業務で効果が出るのか」が明確になっていないケースも多く、特に経験や勘に依存する業務においては、単純な可視化だけでは価値につながりにくく、「どこから手をつければよいか」を見極めること自体が大きな壁となります。
取り組みの歩み
こうした課題に対して、私たちは段階的なアプローチで支援を実施しています。一度に全ての課題を解決しようとするのではなく、スモールスタートで成功体験を積みながら、徐々に適用範囲を広げていくことで、現場への定着を実現しています。
<b>1. データ基盤導入とその後の課題</b>
まずは全社へデータ活用文化を根付かせたいという想いから、データ活用基盤の導入を企画し、環境整備をスモールスタートで開始します。この段階では、いきなり大規模な基盤を構築するのではなく、段階的なデータ収集と効果検証を繰り返しながら、将来の拡張を見据えた基盤を整えることを重視しています。
<b>データ基盤の導入</b>
弊社では将来的な拡張性を考慮し、AWSのAWS Glue・Amazon Athena・Amazon Quickを組み合わせたサーバーレスアーキテクチャを採用しています。特にエンタープライズ利用では、各部門から収集された構造化データ・非構造化データをS3に集約し、データの特性に応じた最適な収集手段を選択できる柔軟な設計が基本となっています。
・データ収集・加工層(AWS Glue):Glueのクローラーによるスキーマ自動検出とETLジョブによるデータ加工を自動化。日次・月次のバッチ処理を中心とした運用に適しており、サーバーレスで運用管理コストを最小化できる点を評価して採用しています。
・分析クエリ層(Amazon Athena):S3上のデータをサーバーレスで直接クエリ可能。クラスター管理が不要で、分析頻度が低い初期フェーズでもコスト効率が高い構成です。データ活用が本格化した段階での発展も視野に入れたアーキテクチャ構成としています。
・可視化層(Amazon Quick):コスト効率の高さとAWS環境との親和性を評価して採用しています。レンゴー様では従来Excelで手作業作成していた定期レポートをAmazon Quickダッシュボードへ移行することで、レポート作成工数の大幅な削減を実現しています。
参考:AWS上で実現するデータ活用基盤例
<b>基盤導入後の課題</b>
基盤の導入によりデータの収集・蓄積という土台は整い、一定の効果が見え始める一方で、現場への浸透はなかなか進まないことが一般的です。多くの企業に共通することですが、長年にわたって確立された業務スタイルを簡単に変え、現場に浸透することは難しいのが実情です。
レンゴー様においても同様で、現場担当者の多くは「BIツールは難しい専門家向けのシステム」という先入観を持ち、従来通りExcelによる手作業でのレポート作成を続けていました。また、データ活用への意欲を持つ社員がいても、普段の業務に求められるスキルとデータ分析に必要なスキルとの間には大きな乖離があり、基礎から体系的に学ぶ機会が不足していました。さらに、データを活用して業務を改善するという発想自体が生まれにくい状況も重なり、「ソフトスキル」「ハードスキル」「ツール」の3つの課題が複合的に絡み合うことで、データ活用が現場に浸透しないという壁が明らかになりました。
<b>2. 全社に向けたデータ活用研修</b>
こうした課題に対して、私たちは技術基盤の整備にとどまらず、業務部門の社員一人ひとりがデータを自ら活用できるようになることを重視しています。そのアプローチの一つとして、「データ活用の現場浸透」を目的としたデータ活用研修を実施しています。
<b>研修の全体像</b>
研修では、以下の3つの観点を軸に、データ活用が現場に根付くための包括的なカリキュラムを設計しています。
・ソフトスキル:データ活用に取り組む動機・目的意識の醸成
・ハードスキル:データ分析に必要な知識の体系的な習得
・ツール:Amazon Quickの実践的な操作スキルの習得
<b>研修カリキュラム例</b>
日程 内容
1〜2日目: 統計学の基礎(平均・分散・相関など)、ペルソナの特定・課題探索、Amazon Quickの基本操作ハンズオンの実施。研修終了後に参加者にて自部門の課題の探索を実施。
3日目: 参加者が持ち寄った業務課題を議論し、課題解決に必要なダッシュボード案を机上で作成。Amazon Quickデモサイトやデジタル庁のダッシュボードデザインガイドを元にデータ可視化の設計原則をレクチャー。
4〜5日目: ダッシュボード案をAmazon Quickで実装。リアルタイムで実装を支援し、参加者の躓いたポイントをその場で解消。
6日目: 各部門の上席者を招いた成果報告会を実施。参加者が業務課題とダッシュボードを発表し、解決案や学びを組織全体に共有。
参考:カリキュラム例
<b>研修内のよくある課題と対応</b>
研修においては、参加者のIT・分析リテラシーの違いや、選定した業務テーマによって様々な課題が発生します。私たちはそうした課題に都度対応しながら、参加者一人ひとりの習熟度と現場での定着を重視した支援を実施しています。例として、以下の2点が代表的な支援内容として挙げられます。
・データ分析未経験者へのAmazon Quick習熟アプローチ
データ分析未経験の社員でも無理なく参加できるよう、統計学の基礎から段階的に積み上げるカリキュラムを設計しています。特に初心者がつまずきやすいポイントを事前に予測し、詳細な操作ガイドと補足説明を盛り込んだハンズオン手順書を用意することで、受講者が自力で操作を完結できる環境を整えています。
・ダッシュボード構築時の課題と対処
「どんなグラフを使えばいいかわからない」という初学者特有の壁に対しては、Amazon Quickの公式デモサイトを活用してビジュアルパターンを提示し、業務目的に応じた可視化手法の選び方を具体的に解説しています。ペルソナや業務課題を定義し、業務フローを書き起こした上でダッシュボードのイメージを固め、Amazon Quickで実装するという丁寧なプロセスを通して、「作って終わり」ではなく実業務で使える成果物を研修内で完成させることを重視しています。
<b>研修後の変化</b>
こうした支援の積み重ねにより、研修を通じてデータ活用に前向きに取り組む社員が大きく増加し、データ活用文化の醸成に繋げることができます。
実際レンゴー様では研修終了時には20名全員が自部門の課題解決に直結する実用的なダッシュボードを完成させ、データ活用を「自分ごと」として捉える意識が現場に広がりました。その結果、研修後3ヶ月でAmazon Quickのユーザーが100名以上増加。これまで情報システム部門主導だったデータ収集依頼が業務部門からのプル型へ転換するという組織変革も起き、参加者が自部門のデータ活用推進役となりダッシュボードが全国展開された事例も生まれています。
自社で再現するためのポイント
これまでご紹介してきた取り組みを振り返ると、データ活用推進において直面しやすい3つの課題に対して、以下のようなアプローチが有効だと考えています。
<b>① 小さく試す仕組みが不足している</b>
最初から全社展開を目指すのではなく、効果が見えやすい領域で小さく始めることが現場の推進力を生み出します。レンゴー様ではExcelレポートのAmazon Quick移行という身近なテーマから始めたことが、その後の全社展開への足がかりとなりました。
<b>② フェーズごとに求められるスキルが異なる</b>
「技術基盤だけ整えれば活用される」わけではなく、ソフトスキル・ハードスキル・ツールの3軸を同時に推進することが不可欠です。レンゴー様ではレンゴー・AWS・JSOLの3社がそれぞれの強みを活かして役割分担しながら連携したことが、取り組みを成果につなげる大きな要因となりました。
<b>③ 業務とデータ活用がつながっていない</b>
どんな課題を解決したいのかを現場レベルで明確にすることが、データ活用定着の鍵となります。ペルソナの定義、業務課題の探索を実施した上で、参加者が自部門の実際の業務課題を設定することで、「データを使う目的」を現場が自分ごととして捉えられることが可能となります。
まとめ
データ活用支援の取り組みから見えてきたのは、データ活用は単なる技術導入ではなく「業務変革そのもの」であるという点です。ユースケースを設計し、適切な技術基盤を整え、現場の人材がデータを使いこなすことができる支援を行うという一連の流れを地道に積み重ねることが、データドリブン組織への変革を実現する鍵となります。
本記事が、同様の課題に直面している皆様にとって、具体的な一歩を踏み出すヒントとなれば幸いです。
参考記事:
寄稿:レンゴーが実践するDX人材育成 – Amazon 流の考え方とパートナー活用 –