2026年05月28日
「製造業ERP導入の先へ」第1回
ERP導入で終わらせないデータ活用とは?
製造業のコスト競争力を高める第一歩
「ERPを導入し、業務も回っている。しかし、経営を変えるはずだったERPが、思ったほど活かしきれていない」—そう感じている製造業は少なくありません。
ERP導入は手段に過ぎません。その活用には2つの側面があります。1つがERPを活用した業務改善。基幹業務データを一元管理し、リアルタイムな経営状況の把握、意思決定の迅速化を図ります。もう1つがデータを活用した企業変革。ERPに蓄積したデータを中心に、様々なシステムを連携しデータドリブン経営を目指します。企業を取り巻く環境の不透明感が増す中、製造業においてもAIなどの最新技術を駆使したデータ活用ニーズが高まっています。
製造業に対し、ERP導入はもとより、データを活用した課題解決、付加価値創造の支援に豊富な実績とノウハウを持つJSOL。「製造業ERP導入の先へ」の第1回は、データ活用でコスト競争力を強化するポイントを解説します。
真のコスト競争力を強化
データを活用し原価を最適化
エネルギーや原材料価格の高騰が常態化する中、製造業においては、いかにして持続的にコスト競争力を高めていくかが、経営上の重要なテーマとなっています。従来のように、現場の勘や経験に依存した個別最適なコスト削減では、事業環境の急激な変化に対応しきれない時代が到来しています。こうした状況下では、部分的なコストダウンではなく、サプライチェーン全体を俯瞰した原価構造の可視化と最適化が不可欠です。特に、適正な利益確保や競争力ある価格設定の土台となる「原価」を、事実に基づき正確かつ継続的に把握・改善していくことが、コスト競争力向上の鍵となります。そのためには、製品別・工程別・拠点別といった多面的な視点で原価を捉え、変動要因をタイムリーに把握したうえで、経営と現場が共通のデータをもとに意思決定できる仕組みへの転換が求められています。
企業が持続的に成長し、競争力を高めるためには、売上だけでなく「どの製品が、どの顧客に、どの販路で、どれだけ利益を生んでいるのか」といった情報を正確に把握することが欠かせません。ところが実際には、利益管理の仕組みが十分に整っておらず、マーケティング施策の精度向上にもつながっていないケースが多くあります。利益構造の可視化と、コスト競争力・マーケティングの両面から見た課題を整理してみます。
数年前までは拠点別・顧客別で利益を把握していた企業も、現在は製品別利益の管理に取り組み始めています。国内では一定の可視化が進んでいるものの、海外ではまだ展開途上という企業が多くあります。国ごとに商習慣や値引き文化が異なり、国内の仕組みをそのまま適用できず、グローバルで統一した利益管理が難しいのが現状です。他には、製品別利益を自動算出できるデータ基盤が整っておらず、各部門が個別にデータを加工しているのが現状です。国内では支店ごとに価格設定や利益管理を任せているため、全体最適ではなく「現場判断の積み上げ」で利益構造が形成されている点も課題です。
営業現場では、CAGRなどの指標を使いながら利益と売上のバランスを見ていますが、利益変動の要因を迅速に把握する仕組みは整っていません。本来であれば、ターゲット顧客・販路・製品の組み合わせで利益を分析し、どこに投資すべきかを判断できることが望ましい状態です。利益要因が見えなければ、マーケティング施策の精度も上がりません。
販促施策や値引き管理にも同様の課題があります。国内では得意先別収益は把握できているものの、販促施策や値引きがどれだけ効果を生んだかは十分に測定できていません。各部門・各支店で施策共有は行われているものの、「どの施策が成果につながったか」「どこを重点的に攻めるべきか」は支店長の経験に依存しているのが現状です。製品別の値引き状況は把握できているものの、国ごとの差異や運用パターンは整理されておらず、グローバルでの価格戦略に活かしきれていない点もあります。
原価管理の複雑さもコスト競争力を阻害する要因です。工場との取引価格は定期的に見直し、原材料費を抑制しているものの、原材料費が変動した際の価格改定ルールは十分に整理されていないケースがあります。また、原価は原材料費だけでなく、光熱費、人件費、物流費、設備稼働率など多様な要素で構成されています。工場ごとに仕入先や光熱費が異なるため、同じ製品でも原価が変わり、さらに、これらのデータがERPに統合されておらず、Excelや別システムで管理されているケースが多々あります。
原価構造が見えなければ、価格戦略も利益管理も精度を上げられず、コスト競争力につなげられていない状況があります。
ERPにデータは集まっているものの、可視化にとどまり、分析や意思決定支援にはつながっていない。
実売データやシェアデータを取得しているが、シェア低下の要因までは分からない。気象データや立地データなど外部データの活用余地もあるかもしれません。しかし、現場の経験則に頼っているのが実情です。
原価管理の高度化は、単なる数字管理ではなく、マーケティングの精度を高めるための基盤づくりでもあります。製品別利益の可視化、販促施策の効果測定、原価データの統合、外部データの活用——これらがつながることで、企業は「どこに投資し、どこを削るべきか」を科学的に判断できるようになります。コスト構造を理解し、利益を生む市場・顧客・製品を見極めること。その両輪が揃って初めて、企業は真の競争力を手に入れることができます。
AIドリブン経営実現を目指す
データ分析基盤構築の4つのポイント
AIドリブン経営とは、企業がデータとAIを中心に意思決定を行う経営モデルであり、従来の経験や勘に依存した判断を、リアルタイムの分析・予測に置き換えることで事業スピードと精度を高める考え方です。
市場変化の兆しを先読みし、顧客ニーズに応じた施策を迅速に実行できるため、競争優位の獲得につながります。特に、需要予測、在庫最適化、価格設定、顧客分析などの領域でAIが大きな効果を発揮し、企業全体の意思決定を高度化していきます。
AIドリブン経営を実現するには、データを統合し、AIを業務に組み込むためのプラットフォームが不可欠です。まず、基幹システムやサプライチェーン、販売データなどを一元的に統合するデータ基盤が必要となります。これにより、部門ごとに散在していたデータを統合し、AIが学習・推論できる状態を整えます。また、AIモデルの開発・運用を支えるMLOps(機械学習オペレーション)環境、データガバナンス、外部データ連携なども重要です。さらに、業務プロセスにAIを組み込むアプリケーション層が必要であり、現場の意思決定にAIが直接作用する仕組みが求められます。これらが揃うことで、企業はデータを資産として活用し、AIを日常業務に浸透させることが可能となります。
「SAP Business Data Cloud」の概要と構成要素
SAP社ではAIドリブン経営を支える製品群を体系的に提供しています。基幹業務を担うERPとしてSAP S/4HANA(Cloud ERP)、データ統合基盤としてSAP Business Data Cloud、そして業務アプリケーションにAIを組み込むSAP Business AIが連携し、企業全体でAI活用を推進できる構成となっています。さらに、AIプラットフォームとしてDatabricksを組み合わせることで、データエンジニアリング、機械学習、生成AIの開発を強化し、SAPデータと外部データを統合した高度なAI活用が可能になります。
SAP S/4HANAは財務・購買・生産・販売などの基幹業務をリアルタイムで処理し、AI活用の前提となる高品質なトランザクションデータを生成し、SAP Business Data CloudはSAPデータと外部データを統合し、データ分析やAIモデルの学習に利用できる点が特徴です。これにより、リアルタイム経営に必要な「最新データをそのまま分析に使える」アーキテクチャを実現できます。
SAP Business AIは、企業のビジネスデータのコンテキストを理解し、統一されたAIインターフェースやロールベースのAIエージェントを提供することで、業務効率を大幅に向上させます。従来型の予測・最適化AIに加え、Jouleに代表されるAIエージェントが、複雑なワークフローを自律的に実行し、意思決定を支援する点が特徴です。
リアルタイム経営を実現するアーキテクチャでは、データの複製やETL(抽出・変換・書き出し)を最小化し、業務データと分析データを一体化することが重要ですが、SAP Business Data Cloudは、SAP S/4HANAのデータを分析基盤で利用できるため、データ鮮度を保ちながらAIモデルの精度を高められます。これにより、企業はAIドリブン経営の基盤を強固に構築できます。
原価最適化に向けたPoCを支援
各分野のスペシャリストが一貫してサポート
原価の高度化には、まず「正確な原価を構成するデータを揃えること」と「そのデータを分析し、経営判断につなげる仕組み」を整えることが欠かせません。原材料費、加工費、間接費、配賦ロジックなどを正しく把握し、製品別・工場別・顧客別に原価を分解できる状態が求められます。また、原価差異の要因を迅速に特定し、価格改定や生産計画、購買戦略に反映できる分析力も重要です。これらを実現するには、ERPの深い理解、データ分析の専門性、そしてそれらを支えるプラットフォーム構築力が不可欠となります。
JSOLには、SAP ERPの原価計算ロジックを熟知したプロフェッショナルが在籍しており、製造業・流通業を中心に多くの導入・改善実績を持っています。標準原価、実際原価、配賦設計、差異分析など、SAP特有の原価管理機能を最大限に活用し、企業ごとの業務に合わせた原価モデルを支援できる点が強みです。さらに、データ分析の専門家も多数在籍しており、統計分析や機械学習を用いて原価変動の要因を可視化し、改善余地を抽出する高度な分析支援が可能です。
また、Databricksの導入実績を持つエンジニアが在籍しており、レイクハウスアーキテクチャを活用した大規模データ処理やAIモデル開発をご支援できます。SAPデータと外部データを統合し、原価予測や異常検知などの高度分析を行う環境を構築できる点は、他社にはない大きな価値です。さらに、SAP製品やデータ分析を行うためのプラットフォームを整備できる技術者が揃っており、SAP S/4HANAを中心としたERP基盤の構築から、SAP Business Data Cloudを活用したデータ統合基盤の整備まで、一気通貫でご支援できます。
特にSAP Business Data Cloudは、SAP S/4HANAのデータを分析基盤と連携させる点で親和性が強く、最新の原価データを分析に活用できる点が特徴であり、これにより、リアルタイムで原価の変動を把握し、即座に経営判断へつなげるアーキテクチャを実現できます。
JSOLではお客様の現状(データ保持状況、既存プラットフォーム、運用体制)を踏まえ、アジャイル的に段階的な改善を進めることができます。初期はデータの可視化から始め、次に差異分析、最終的にはAIによる原価予測や自動アラートへと進化させるロードマップを柔軟に描ける点が大きな強みです。
原価は企業の競争力そのものです。正確な原価を把握し、変動要因を読み解き、改善につなげる仕組みを整えることで、企業は利益構造を強化し、持続的な成長を実現できます。JSOLはその実現を、SAPの深い知見とデータ分析の専門性、そして強固なプラットフォーム構築力でご支援していきます。
JSOLは、25年以上にわたりERPシステムの導入支援にたずさわってきました。その過程で、お客様の課題解決やご要望に応えるために、ERPシステムだけでなく周辺システムを含む様々な領域のサービス、技術に関する知見・ノウハウを培ってきました。今や、ERPはDX推進のインフラを支え、それを拡張することで企業をトランスフォーメーションするプラットフォームへと進化を続けています。
SAP ECC 6.0の延長サポートは2030年に終了します。しかし真の危機はサポート終了ではなく、AIドリブン経営時代に乗り遅れることです。データを活用した企業変革の実現へ、データを活用したコスト競争力強化はその第一歩となります。
「ERP導入の先へ」第2回は、なぜERPに蓄積されたデータが経営に活かしきれないのか、その背景にある“部門間に分断されたデータ構造”を解き明かします。
エンジニアリング(Engineering)、サプライ(Supply)、プロダクト(Product)、サービス(Service)、カスタマー(Customer)ーこれら5つのチェーンを統合し、経営基盤となるERPを中核にMES(製造実行)、CRM(顧客管理)、SFA(営業支援)などを連携することで、全社をひとつの価値創出プロセスとして再構築するアプローチを解説します。