2026年07月24日
AI導入で成果が出ない理由とは?
3社事例に学ぶ「業務構造設計」の重要性
Salesforce Japanが主催する国内最大級のイベント「Agentforce World Tour Tokyo 2026(以下、AWTT)」が、2026年6月9日から10日まで、ザ・プリンス パークタワー東京およびSalesforce+で開催されました。
私たちJSOLからもメンバーが参加し、AIエージェントを業務プロセスに組み込むための考え方や、企業データ・業務コンテキスト・ガバナンスをどのように整備すべきかについて、多くの示唆を得る機会となりました。
今回は、AWTTの中で紹介された資生堂、日東電工、Hondaの3社の事例をもとに、AI導入が成果につながる企業とそうでない企業の違いを整理します。
その中で紹介された有力事例からの活用エッセンスを本記事でご紹介します。
結論、各社の取り組みから見えてきたAI導入成功のポイントは、単なるツール導入ではなく「業務とデータの構造設計」にあります。
AI導入が停滞するのは精度やデータ量の問題ではない
AI導入が停滞している企業では、「精度が出ない」「データが足りない」といった議論がよくなされます。しかし実際の事例を見ると、問題はもっと手前にあります。
資生堂では、顧客対応が電話・メール・チャットごとに別々の業務として処理されていました。
そのため、例えば「過去にどのような問い合わせをしていて、どのような不満や期待を持っている顧客なのか」といった文脈がチャネルごとに分断され、担当者ごとに解釈し直す必要があります。
さらに、旧CRMは個別最適で作り込まれており、新しいチャネルやAIをつなげようとすると別システムとして追加せざるを得ない構造になっているという制約も視野に入れなければなりません。
日東電工では、営業が顧客から受け取った要望や条件がメールで共有され、各担当者がExcelに転記して管理していました。
その結果、
● なぜその仕様になったのか
● どの顧客要求に対する設計判断なのか
● どの時点で条件が変わったのか
といった情報が一貫して追えず、設計判断は担当者の記憶や経験に依存する状態でした。
Hondaについても、問題は「顧客との接点がない」ことではありません。店舗、コールセンター、アプリなど接点は存在していました。ただし、それぞれが独立しているため、例えば「アプリで情報収集している顧客の履歴が来店したときに活用される」といったことができず、顧客の行動履歴を活用した提案につながっていませんでした。
3社に共通しているのは、「情報はあるが、それが意思決定に直接使える形になっていない」という点です。
AI導入よりも重要なのは「業務」の見直し
成果を出している企業は、AIを導入する前に「業務の扱い方そのもの」を変えています。
資生堂が変えたのは、問い合わせ対応の考え方です。従来は「電話対応」「メール対応」といったチャネル単位で業務が分かれていましたが、これを「一人の顧客に対する一連の対応履歴」として扱う形に変えています。
例えば、ある顧客がチャットで問い合わせた後に電話をしてきた場合、それは別案件ではなく同一の流れとして記録・参照されます。
さらにAIが対応内容を要約・記録することで、「何に困っている顧客なのか」「どのような背景があるのか」がデータとして残るようになっています。
これにより、次の対応者は履歴を読み解くのではなく、そのまま判断に使える状態になります。
日東電工では、「設計をどう決めたか」をデータとして扱える形に変えています。例えば、ある顧客案件に対して、営業が取得した要求、開発側が出した設計案、その後の修正理由や判断の経緯が、一連の流れとして記録されます。
従来であれば「担当者が覚えている」内容を、後から誰でも確認できる形にしているイメージです。この結果、過去案件を参照しながら設計を進めることができ、同じ検討をゼロからやり直す必要がなくなります。
AIはその上で類似案件を提示できますが、重要なのは“AIが使える状態に業務が整っていること”です。
Hondaでは、「いつから営業を開始するか」という前提を変えています。従来は来店や問い合わせが起点でしたが、顧客のアプリ利用履歴や行動データをもとに、その前段階から提案を開始しています。
例えば、利用状況に応じて最適な商品提案を行ったり、予約変更のタイミングで関連商品を提示したりするといった形です。
この結果、営業担当者は「一からヒアリングする」のではなく、「すでに整理された顧客状況をもとに意思決定を支援する」役割に変わります。
3社に共通する設計思想
この3社の取り組みを整理すると、単なるシステム連携ではなく、次のように言い換えられます。
● 資生堂は「顧客の状況をそのまま判断に使える状態」にしている
● 日東電工は「設計判断の理由を後から辿れる状態」にしている
● Hondaは「顧客の行動時点で意思決定を始められる状態」にしている
いずれも共通しているのは、“情報を解釈する工程を減らしている”点です。
従来は、人が情報を読み取り、整理し、判断する必要がありましたが、この構造ではデータがそのまま判断に使えるため、AIも含めて処理が可能になります。
まとめ
AI活用を検討する際に、最初に考えるべきは「どこにAIを導入すべきか」ではなく、以下の問いからスタートすることが重要だと言えます。
● 自社の業務で、毎回、人が読み解いて判断している情報は何か
● その判断は、条件・履歴・ルールとして分解できるか
● その判断結果は、他の担当者が再現できる形になっているか
この問いに対して、「担当者に聞かないと分からない」「過去資料を探さないと分からない」となる領域こそが、見直すべき業務課題であり、AIはこれらの業務改善と合わせて初めて活用されるのです。
したがって、AI活用の本質はツールの選定や導入方法ではなく、業務における意思決定プロセスをどこまで分解し、再構成できるかという業務設計力にあると捉えるべきです。
なお、本記事の内容は2026年6月時点のSalesforce+の公開情報をもとにしています。
● Salesforce+ 【事例公開】ホンダが挑む、AIエージェントと描く「新しい顧客体験」
https://www.salesforce.com/plus/experience/agentforce_world_tour_tokyo_summer_2026/series/best_of_agentforce_world_tour_tokyo_2026/episode/episode-s1e7
● Salesforce+ 【日東電工社事例】“スペックイン”を属人化させない。AIエージェントで「現場の熱量」を「確実な成果」へつなぐ新常識
https://www.salesforce.com/plus/experience/agentforce_world_tour_tokyo_summer_2026/series/best_of_agentforce_world_tour_tokyo_2026/episode/episode-s1e5
● Salesforce+ 資生堂が描く「心に届く」カスタマーサービス〜美の創造を、最新テクノロジーで加速〜
https://www.salesforce.com/plus/experience/agentforce_world_tour_tokyo_summer_2026/series/best_of_agentforce_world_tour_tokyo_2026/episode/episode-s1e19